その日はリーフさんの探偵事務所(相談室)ではなく、近くのビアガーデンで待ち合わせた。まだコロナ警戒期間だったので屋外で会うことにしたからだった。
色々と近況報告を聞いてもらって、次の調査のタイミングを相談するのが目的。といっても私は私でリーフさんと会えるから、それも楽しみだったのは正直なところ。
でもその日はトラブルが起きた。隣県まで仕事で出ていたはずの旦那が、そのビアガーデンに来たのだった。
私も良くなかったと思う。多分、リーフさんの前で少し女らしい感じになっちゃってたんだろう。
目があって、旦那はズカズカとこっちに早歩きで詰め寄ってきたけど、リーフさんは背を向けてるから気付いてない。
後ろから「おぉ、お前!」と旦那がリーフさんの左肩あたりをグッと強く掴んだけど、ハエを振り払うみたいな仕草をしただけなのに、旦那はふらついて手を離した。
2人が睨み合うような一瞬の間があったとおもったら、「しゃしゃってんじゃねぇよ」ってドスをきかせながらリーフさんの顔面めがけてパンチした。
焦ってとっさに、違うよ!バカ!って私が叫ぶのと同じタイミングで、テーブルに頭を叩きつけられたのは旦那のほうで、そのまま尻餅をついてる。
旦那の後ろから続けて来ていた旦那の部下M君が思わずリーフさんに左手を伸ばすと、その手を握手するように握って、なぜかM君のほうが膝をついて自分の肩を痛そうに右手で押さえている。
旦那が立ち上がって、また掴みかかろうとしたけど、リーフさんはあいている右手で一瞬…ほんとに一瞬軽くパンチ?しただけだと思うのに、旦那は首元を押さえてゲホゲホ苦しんでた。
何をしたのかさっぱりわからなかったけど、リーフさんが手を伸ばすと、地面に腹這いに伏せさせられたK君の上に旦那は横向きで倒れる。
旦那の膝を旦那の顔に押し付けるようにして、リーフさんが2人にまたがってるだけ…みたいな姿勢なのに2人は動けないでいる。
なにこれ、なにが起きてるの?修羅場なのは間違いないけど、ガテン系でゴリラマッチョな2人があっさり負けた?
リーフさんも多分マッチョだけど、スリムで一回りサイズが小さい。でも、そういえばこの人、警察の特殊な部署にいた人だったから、めちゃくちゃ強いのかもしれない。
映画観てるみたいでちょっと面白いし、頭が追いつかなくて何を言うべきか言葉も出てこない。
あわてて止めに入った。自分でも笑っちゃったけど、止めに入る時、無意識にリーフさんのそばに寄ってた。
なんで俺じゃなくてアイツの所いった!?って後でキレられたけど…自分の浮気がバレてないって思ってるから出てくる言葉だし、調査されてるとはやっぱり気付いてないんだ。リーフさんが探偵とも思ってないんだ。ってホッとした。
ちょうどいいタイミングで女性スタッフも到着して「妻の◯◯です。」みたいな完璧な演技で乗り切る。
女性スタッフさんも当然旦那の顔は知ってるから、即座に気を回してくれて助かった。女性スタッフと私はお友達、そしてリーフさんはその旦那さんということで丸くおさまった。
リーフさんも知らないふりが上手で「すみません!酔っ払いにからまれたとばかり…」と謝ってた。
謝らないで!もっとぶっ飛ばして!って心の中で思ってたのは誰も知らない。それくらい自分の旦那が嫌いになっていたのに、よく一緒にいれたな…と今は思います。